孤独な夜 第一章


夢を見た。

姉さんが殺されたあの日。あの場所。あの時間。







春輝は空から地面を見下ろしていた。

そこには広い街並みが広がっていて、ちょうど真下あたりにかつての春輝の家が見えた。

その家の中にはあいつがいた。

赤石洸次(あかいしこうじ)。姉さんを殺したあいつ。



春輝は煮え立つ怒りを抑えられずに、赤石を殴りに行こうとしたが、どうやっても地面に降りることができない。

ここは、空のはずなのに自分の足元もまた透明の地面のようになっていて下に降りれるようなことはなく、ただただ下の様子をうかがうしかできなかった。







赤石は居間のソファに座っていた。

玄関から入ると右側のドアにはトイレがあり、左側のドアは父親である洋輝(ひろき)の部屋がある。

リビングは正面にあるが、玄関から居間のドアを通しても見えるのはテレビの横側であり、テレビの向かい側にソファがあるので玄関からは死角だった。

そして赤石がソファに座って部屋を見渡していると、沙弥が帰ってきて玄関から入ってきた。



「入っちゃだめだ!姉さん!」



春輝は精一杯声を張り上げて叫んだが、沙弥には聞こえていない。

沙弥は居間に入り、ソファに座ってこちらを見ている赤石に気づいた。



「おかえり神花さん。」

「ちょっと赤石君何やってるのよ私の家で!出て行ってよ!」

「そんなふうに言わなくてもいいだろ?僕はこうして君の帰りを待っていたんだから。」



赤石があまりにもあっさり涼しい顔で答えているので、沙弥は驚きより怒りの感情がこみ上げてきた。



「ふざけないでよ!第一、どうやって私の家に入ってきたのよ!」

「それは簡単だよ。ここの家の鍵を使っただけだよ。」



そう言って赤石はズボンの左のポケットから、沙弥がなくしていた鍵を取り出した。



「それ私のなくした鍵じゃない!!返して。」

「僕が帰るときに返してあげるよ。」

「いいかげんにして!!鍵を返してさっさと出て行って!じゃないと警察呼ぶわよ。」

「まあまあ落ち着いて。僕は君と話がしたいだけなんだよ。」

「私はあなたと話すことなんて何もないわ。わかったらさっさと出て行ってよ。このストーカー!!」



沙弥が怒鳴りつけると、急に赤石はうつむいて肩が小刻みに震えだした。



「僕がストーカー?この僕が?」

「そうよ!ストーカーじゃなかったらただの変態よ!」



沙弥のその一言は赤石の逆鱗に触れてしまった。

赤石の目はカッと見開き、怒りで体中を震わせた。



「おまえは沙弥じゃない!偽者だぁぁぁ!!」



赤石は走ってキッチンに行き包丁を取り出し、沙弥に突きつけた。



「姉さん逃げて!早く逃げて!」









春輝は叫ぶのに沙弥には聞こえない。



「やめて!そんなもの出さないで!」









沙弥の悲鳴は春輝に聞こえる。









沙弥は居間の扉を開けて逃げようとするがなぜか開かない。



開かない。開かない。開かない。



「偽者なんて死んじまえぇぇぇ!!!」



赤石は包丁を振りかざしてそして・・・













「いやあぁぁぁぁぁ!!!」











「姉さぁぁぁぁぁん!!!」



















「はっ・・・」



春輝は目を覚ました。

背中には汗がぐっしょり濡れていて、心臓も激しく鼓動を打っていた。



カーテンの隙間から朝日が射し込み、小鳥が元気よくちゅんちゅんと鳴いていた


朝日が射し込み明るくなってきた部屋には春輝が一人ベッドから上半身を起こした。



「またあの夢か・・・。」



春輝がぼんやりした意識を取り戻していると、下の階から春輝を呼ぶ声が聞こえた。



「春輝君、起きなさい。」

「今降ります。叔母さん。」



春輝はそう返事をしてベッドから降りた。



(またあの夢・・・姉さん・・・)



春輝の頭の中に悪夢がよみがえった。





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