囚人
「ちくしょう!何で俺がこんな目にあわなければならないんだ!」
囚人服を着た俺は床に拳を叩きつけながら叫んだ。
「わざとじゃねぇのによ・・・」
深夜何時頃だろうか、俺は周りよりやや大きめの民家に忍び込んでいた。
生活する金もなかった俺は盗みをすることにしたのだ。もちろん盗みに対して抵抗はあった。しかし親からは勘当され頼れる友人もいなかった俺は盗みをするしかなかった。なので俺は仕方なく盗みをすることにしたのだ。
幸いにして窓が一つ無用心にも鍵がかかってなかったので簡単に忍び込むことができた。
忍び込んだ先は台所だった。薄暗くてよく分からなかったが調理器具の金属の部分が窓から入ってくる月の光がやや反射しているので間違いは無いと思う。
俺は忍び足で金がありそうな場所を探した。
居間、寝室、仕事部屋。ありとあらゆる場所を回り、金のありそうな場所を見つけた。そしてタンスの引き出しの中に数十万入った封筒を見つけ、入ってきた台所から逃げようと台所へ向かった。
最初に入ってきた窓から逃げようとしたその瞬間
「待て!」
強く響く男の声に怒鳴られた。
俺は呼び止められて焦った。何とかしないと、と焦った。心臓はものすごい勢いで痛いぐらいに動いている。それと同時に頭の中も何とかしないと、ただそれだけを考えていてそれ以外は考えられなくなった。
目の前にいるのは男が一人。
幸か不幸か近くに包丁がおいてあったのでそれを手にとって振り向きざまに勢いよく包丁を持った手を振り回す。
しかしそいつはバックステップで避けて俺とそいつが対峙する格好になった。
そのとき目の前の男は驚いて目を丸くして立ち尽くしていた。
何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないとなんとかしないとなんとかしないとなんとしないとなんとしないとなんとしないとなんとかシないトナんとかしナイとなんとかシナいとナントかしないトなんトカシナいとなントカシいとナントかシナいトナントカしナイトなントカしなイトナントカシナイトナントカシナイトナントカシナイトナントカシナイトナントカシナイトナントカシナイトナントカシナイト。
――――――。
「なんで俺が死刑判決を受けなきゃなれねぇんだよ・・・」
俺は三日後の昼に公園でコンビニ弁当を食べているところに警察官がやってきて職務質問されて捕まった。
あの時の男の妻が物陰から犯行を見ていてその証言からあっさり捕まったのだ。
強盗殺人に当てはまり相当重い罪になるだろうとは覚悟していたがここまでとは思っていなかった。
後で知ったことだが俺が殺してしまった男は有能な国家公務員で将来ものすごく期待され人望も厚い、俺とは正反対のまさにエリートという名前が相応しい人間ということだった。
とても惨めな気分になり今まで生きてきて受けた事が無いぐらい強い感情だった。どんな虐めにあってもここまで惨めな気持ちにはならないだろう。
床に水滴ができる。自分では気づかないうちに俺は泣いていた。
「ちくしょう、ちくしょう・・・・・・」
「おい、お前に面会者が来ているぞ」
何十分と泣いていたのか分からない。もしからしたら数分という短い時間だったかもしれないが、とにかく泣いているときに看守が声をかけてきた。
「俺にですか?」
「あぁ、そうだ。」
心当たりがなかった。
「誰だろう?」
「入れ」
と、看守が俺を面会室に入れる。入ったのを確認すると看守も部屋に入り、鍵を閉め扉の前に立つ。俺が逃げ出さないようにするためだろう。
面会室は殺風景で何もない。あるとすれば高さ二メートルぐらいにある小窓が一つ。それには鉄格子が嵌められている。わざわざ鉄格子を嵌めていなくても看守が見ている前でそんなところから逃げる奴はまずいないと思う。
その他には何も無く面会者と厚いガラス一枚で遮られている。たったガラス一枚向こうの世界が今までいた自由な世界と思うと、とても悔しくて憎い思う。
そして自由の世界にいる面会者。
面会者は黒いフード付の上着を着ていて顔がよく見えない。なんというか怪しい感じがものすごくする。警察は何故この男を捕まえないのか、と疑問に思うほどに。
――――――。
空気が変わった感じがした。無理矢理に空間を歪めたような、なんともいえない感じが体全体に違和感として感じた。
「?」
辺りを見回す。扉の前に立っている看守、二メートルの高さにある鉄格子が嵌っている小窓に黒いフードを被った怪しい面会者。何も変わっていない。
「そこの椅子にお座りください」
しばらくの沈黙を破ったのは黒いフードを被った面会者で声をかけてきた。声はとても低くしわがれた声で不気味さを感じるほどだ。
「あ、あぁ」
流されるようにして俺は椅子に座った。しかも黒フードの面会者はとても偉そうな態度だったのでついかしこまってしまった。
「俺に何か御用ですか?」
俺に黒フードの面会者は尋ずねた。
「貴方はここから出たいですか?」
今、目の前にいるやつが言った言葉を瞬時に理解する事はできなかった。理解できたとき一瞬喜んだがすぐに無理だと考え直され落胆した。
「そりゃあ出れるなら出たいさ、だけど無理だろ。そもそも看守が聞いているんだ、お前も一緒に捕まるぞ」
「それには心配及びません」
黒フードの面会者はそういうと後ろを指差す。その先には看守。先ほどと同じ姿勢で立っている。そう、全く同じ姿勢で立っている。微動だせず瞬きもせず呼吸もせずにそこに先ほどと同じ姿勢で立っていた。
それに気がついたとき俺は興奮を覚えた。
「貴方はここから出たいですか?」
さっきと同じ質問。だが返事は違う、俺は素直に答えた。
「出たい!」
「その前に私の質問に答えてください。何故貴方は犯罪を犯したのですか?」
「・・・生活する金がなくて困ってたんだよ。借金するのは嫌だったし他に頼れる奴もいなかったから仕方なく」
なぜそんな事を聞いたのか理由が分からなくて困ったが嘘をついたら出してもらえないかもしれないと思い正直に答えた。
「では貴方はお金があれば犯罪を犯さなかったわけですね?」
「あぁそうさ!」
「では貴方に少しばかりお金を差し上げます。そしてここからも出します。ただし一つだけ約束をしてもらいます。もしこれから先に貴方が犯罪を犯したら貴方の命をいただきますが、よろしいでしょうか?」
「・・・約束する」
命という言葉にためらいを感じたがここにいても強盗殺人犯として殺されるだけ。
「ではこちらにお金の場所が記してあります」
俺はかなり驚いた。紙を渡すときの指が白くて細い。まさに人間の骨だったのだ。
―――死神。その言葉が脳裏をよぎる。
「では約束ですよ」
とても低くしわがれた声が響き、目の前の黒フードが後ろを向き面接室から出ようとする。
「お前は・・・何者だ?」
俺は躊躇いながらも聞いた。目の前にいる不思議な現象に聞かずにはいられなかった。
「余計な探索をしないほうが貴方の為だと思いますが・・・」
ドアノブに手をかけながら言う。そしてそいつが外に出て扉を閉めた。
「二度と来るなよ〜〜」
不意に後ろから声をかけられて驚きとっさに後ろを向く。そこには看守が一人、手を振っている。その裏には高い塀があった。
一瞬何が起こったのか分からなくて混乱しているが自分なりの考えを出してみる。 あの変な野郎が出してくれた。
俺が最終的に出した答えはそれだった。最終的って言っても特に何も考えていない。思いつくのはさっきの一件しかなかったからだ。
あと、俺の身については、後ろの看守が手を振っていることから脱獄したのではなく出所したことの方が自然な考えだと思う。
とりあえずここで考えていてもしょうがないので金のある場所が書かれている場所へ移動することにした。
「一体どうなっているんだ・・・?」
俺は刑務所から車通りの激しい交差点へ移動していた。
ここまで来る途中に俺が忍び込んだ家の方を見てきた。俺が殺した男が生き返って事件そのものがなくなった。と言う訳ではないらしい。なんでも犯人は逃走中で捕まっていないらしい。無用心にも殺してしまった男の妻に顔を見られてしまったが何の反応もせず悲しんでいるだけだった。どうも俺以外の別の人間の仕業になっているみたいだった。
色々考えごとをしながら一歩前に歩き出した。
プップーーーー!
大きくて耳障りなクラックションが聞こえたのでそのほうを向くと
「!」
トラックが突進してくる。ブレーキをかけているがぶつかれば重体は免れない。
大きく後ろへ仰け反る。その際に尻餅をついてしまい。尻が痛い。
「馬鹿野郎!今度飛び出したら訴えるぞ!」
トラックの運転手に罵声を浴びられた。
うるせぇなぁと思いながらも立ち上がり尻をさする。ちなみにとても尻が痛い。思った以上に強くぶつけたみたいだ。
ついてないなぁ、と思ったときに周りの空気が変わった気がした。
「たった今、道路交通法を犯しましたね?」
「おぅわあぁ!」
急に後ろから声をかけられたので驚いたなんていうもんじゃないぐらい驚いた。いきなり殺されるかと思ったぐらいだ。
「な、何か用かよ?」
「犯罪を犯したので命を頂きにきました。」
どうやら殺されるみたいだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!今はまだ金が手に入ってねぇ!だから犯罪を犯しても仕方ねぇだろ?なっ?なっ!?」
脱獄(じゃないけど)したばかりで殺されてはたまらないので必死でいい訳をする。
「仕方ありませんね。今のは見過ごすといたしましょう。」
そういい残すと刑務所であった死神(だと思う奴)が消えて元の空気に戻った気がした。
「あ、危なかった・・・。今度から気をつけよう・・・」
犯罪を犯す事もトラックに引かれそうににならないようにする事にも注意することにした。
「ん〜。この辺でいいはずなんだけど・・・」
刑務所からやや離れた場所にある大きな駅の中で彷徨っていた。
駅にあるロッカールームの中に金が入っていると紙には書いてあるのだが、そのロッカールームがなかなか見つからない。かれこれ三十分は探している。案内板を見たがだいたいこの辺りにある。とぐらいにしか分からないので大して役に立たなかった。ただ単に俺が見方を知らないだけなのだが分からないのなら大して変わりない。誰かに聞いこうと思ったのだがメモに書かれている金がどんなルートで手に入れてどんなものに入っているか分からないと考えてしまうの躊躇われた。
少しイライラし始めたときに右手にロッカールームが見えたので歓喜の声を上げそうになった。
「ロッカーの番号はここであってるよな」
ロッカーの前に立つ。ロッカールームが見つかってよかったと思ったのつかの間、とても広くて呆然とした。・・・駅が嫌いになりそう。
なんとか目当てのロッカーにたどり着いたときは我ながらとても嬉しかった。
「ロッカーの番号は18782・・・。よし合ってる」
確認の為に俺はもう一度ロッカーの番号を確認する。気のせいかこの番号を見てるととても頭にくる。
「それはそうと鍵がねぇぞ」
あいつからは鍵のようなものは渡されていない。近くに落ちてるのかそれともあいつの仲間が持っているのかと考えたが鍵はかかってなかった。中身が取られてたらどうするんだと焦ったがそんな心配はなくきちんと中にそれは入っていた。
ロッカーの中には黒い巾着袋が一つたたずんでいる。気のせいか威圧を感じる。
俺は恐る恐る黒い巾着袋へ手を伸ばし、それをつかむ。思ったよりも厚みがある。
中身を取り出してみるとドラマなどでよく見る一万円札が判子が押してある白い紙で束になっているものが三つあった。一つの束が百万円でいいのなら今この前にある金額は三百万円と言うことになる。
「・・・・・・」
俺はしばらくそこに立ち尽くしていた・・・
「せんぱ〜い!」
爽やかな晴天の中、噴水から噴出した水が日光に当たってきらきらと光る。周りには新緑が顔をだしていてもうすぐ春も終わり夏になろうとしていた。
俺は噴水の近くにあるベンチに座っていて、声をかけられると読んでいた本にしおりをはさみ本を閉じる。
声をかけてきたのは俺の所属している事務所の後輩であり交際中の彼女でもある五つ年下で素直で明るく元気な人だ。
「すいませ〜ん。ちょっと遅れちゃいました」
息を切らしている。汗を多くかいていることからもさっきまで走っていた事がうかがえる。
「もしかして待ちました?」
「うん。約束の時間より十五分早くついた分とお前の遅刻分の十五分の計三十分待った。」
「うぅ・・・。気を利かして待ってないって言ってくださいよ〜」
「嘘も立派な犯罪だよ。君も弁護士なら罪を犯してはいけないよ。犯罪に大きいも小さいもないのだから」
思えば不思議な経験をしてから十年が経った。
あの頃の俺はアルバイトをして生活費を稼ぐのと同時に知らず知らずの内に犯罪を起こしてしまうのを防ぐ為に法律について勉強した。
六法全書を最初開いたときはとても覚えきるのは無理だと思った。覚えきるどころか読んでも意味を理解できない。そんなレベルだったのだ。
しかし人間、変われば変わるもので最初は簡単な本から読み始めた。簡単な本でも字しかない本を読むのはたった一ページ読むだけでも辛かったが月日を重ね、数年経つ頃には六法全書の内容を少しは理解できるようになっていた。
理解できるようになってはいたが完全に理解しているわけではないし、ただ漠然とかなり分厚い本の内容を覚えるという作業は辛く落ち込んでいた頃があった。気晴らしに外で覚えてみるかと思って今日みたいに天気の良い日にベンチで六法全書を読んでいると初老の男性が話しかけてきて、それから俺の人生は変わったと言っていい。
初老の男性は弁護士で今、俺が所属している事務所の所長である。
若い人の為にということで勉強を見てもらえるようになった。
所長の事務所に就任させてもらったし、所長に厳しく丁寧に仕込まれた甲斐があって俺は弁護士になる事ができたし、しばらく経つと優秀な部類の弁護士になることができた。俺にとっては神のような存在だ。いくら感謝しても感謝しきれない。
所長も俺のことが気に入ってくれたらしく今右隣にいる所長の娘と交際も許してくれた。
俺の生活の様子は十年前とは大分異なっていて、この世界が希望に溢れていた。
「ぼーっとしてどうしたんですか?」
「ちょっと昔の事を思い出していたんだ」
「やっぱり先輩は昔から犯罪を許さない正義の人だったんですか?」
この質問に少しの間答えるのを躊躇った。十年前から今までの間は死神(だと思う奴)との約束を守った。犯罪を許すか許さないかは別の問題として自分は犯罪を犯さなかった。真か嘘かは分からなかったが守らいと本当に殺される予感がしたからだ。だから十年前から今までは罪を犯していないから正義の人といえるのかもしれない。
しかし彼女が聞いているのはもっと前のことも含むだろう。そうしたらあの今思えば後悔しか残らない人を殺してしまった時の頃も含む。それはどうひいき目で見ても正義の人とは言えない。
「昔はけっこう悪だったかもね」
「え〜。なんか信じられないなぁ〜」
彼女にとっては意外な返答だったらしくちょっと驚いた顔をしたがすぐにクスクスと笑った。
「でも先輩は大した事はできそうにもありませんよね。どんなに頑張ってもコソ泥がいいところです」
「うっ・・・。ひどいなぁ。そんな度胸がなさそうに見える?」
「見えますよ。先輩は弁護士の仕事をしているときは堂々としてますがそのとき以外は気弱に見えます。・・・あっ、見えるじゃなくて気弱でしたね」
笑顔で彼女が答える。
犯罪を犯す度胸なんてものはいらないが何気に傷ついた。確かにあのときはコソ泥が関の山だった。しかしそのコソ泥が原因で人を殺してしまった。度胸なんてなくても人は大それたことができるのだ。
「必ずしも度胸が備わって犯罪を犯すわけじゃないんだ。ちょっとしたきっかけで大それた犯罪を犯した気弱で臆病な人もいるんだ。ちょっとしたきっかけなんて本当に不意に襲ってくるものだよ。そういう人たちには特にやさしく接して弁護してあげないとね」
彼女は了解っす、といって笑いながら敬礼をする。ちょっと小馬鹿にしているようだったので本当に分かってくれたか心配だったが素は真面目で素直なので分かってくれただろう。
「いぎあり!しょうにんのはつげんはさきほどのしょうことあきらかにくいちがってるぶぶんがある!」
「ずるい〜!おとうさんのやくはわたしがやるの!」
小さな男の子が右手の人差し指を近くで駄々をこねている女の子を指差す。弁護士の真似をしているらしかった。実際にさっきのような発言を勢いよく言うのかという疑問は残るが小さな男の子と女の子は気にしていない。男の子は特撮ヒーローになったかのように自慢げになっているし女の子は遊んでいたおもちゃを取られたかのような不機嫌さだ。
女の子がずるいと言いながら男の子に襲い掛かる。男の子も負けじと女の子に襲い掛かる。叩いたり蹴ったり噛み付いたり、よく子供がする普通のケンカを始める。
「あらあらあら、またケンカしてるの?」
二人の母親らしき女の人が隣の部屋から移動してきて二人のケンカを止める。
「さきにけんかをうってきたのはあいつだもん!」
「だっておにいちゃんがおとうさんのやくをかってにとるんだもん!」
よしよしと言って二人の頭をなでる。
「あなた達は本当にお父さんのお仕事が好きなのねぇ」
母親は怒らずに笑顔で二人の頭をまだなでながら話す。
「だっておとうさんのおしごとはかっこいいんだもん!」
「うん!とってもかっこいいの!」
二人の子供は誇らしげに話していて目が輝いている。
「お父さんの仕事が格好がいいって言うけどお父さんは格好よくないのかい?」
隣の部屋にいた俺はさっきの会話を聞きつけて子供たちのいる部屋に移動する。
「おとうさんはしごとのときはかっこいいけど」
と男の子。
「いえにいるときはかっこわるいもん」
と女の子。
「そうよね。普段のお父さんはだらしがなくて格好悪いもんね」
と妻が言った。
「そ、そんなにだらしないかなぁ・・・」
とランニングにトランクス姿の俺が言った。
あれから更に数年が過ぎ、付き合っていた同僚の後輩にプロポーズして結婚した。結婚して二年ぐらいが過ぎたころ長男が生まれ次の年に長女が生まれた。
弁護士だった彼女は子育てを理由に現役を引退したが今でもたまに事務所に顔を出している。といいうのも妻の父親で俺の義理の父親にあたる所長が遊びに来るように言っているからだ。所長は孫にかなり甘くて妻に甘やかしすぎです。と怒られていたが相変わらず溺愛っぷりは直っていない。
仕事の方は順調で妻が働いてなくても俺一人で十分食べていけるし多少の贅沢ならできた。
人生の中で一番幸せなときが流れていた。そしてずっと流れていると信じていた。
ゴトッ
ある夜中の晩、俺は不審な物音で目を覚ました。
妻もその不審な物音で目を覚ましたらしい。妻の隣で寝ていた子供たちも目を覚ましかけたが妻がなんでもないから寝なさい。と言ったのでそれに従い子供たちは眠った。
「ちょっと様子を見てくるからお前はここで待ってろ」
俺は妻にそれだけいうと不審な物音がした方へ行く。
俺がそこに行くと不審な人物が台所の窓から逃げようとしていた。
「待て!」
俺は犯人を威嚇するように腹のそこから怒鳴りつけてやった。
武術の心得は多少あったが相手の実力が分からない以上油断はできないので威嚇して少しでも相手の戦意を喪失させようとした。
不審な人物が近くにある包丁を持つ。ここで俺はこいつは素人だと思った。武術の心得がある者なら使いにくい武器は取らず素手で挑んでくるはず。別の武術を習っている可能性はあったが怒鳴ってからびくびくしていたので素人と思った。
それを証拠に包丁を持った手でたいして早くもなく大振りな攻撃を繰り出してくる。その攻撃を俺はその攻撃をバックステップで避け不審な人物と対峙する。
顔を見たときに驚いた、男がそこに構えていたのだ。ただの男が構えているだけなら何も驚かないのだが見覚えがある顔だったのだ。たしかあの顔の男はおれがどろぼうをしタときにコロしてシマッたオトコニニテイタノダチガウトワカッ・・・・・・。 体が急に熱くなっていくのを感じ、そこで俺の意識が途絶えた。
「ちくしょう!何で俺がこんな目にあわなければならないんだ!」
囚人服を着た不審な男は床に拳を叩きつけながら叫んだ。
「わざとじゃねぇのになんで俺が死刑判決を受けなきゃなれねぇんだよ・・・」
「ちくしょう、ちくしょう・・・・・・」
何十分と泣いていたのか分からない。もしからしたら数分という短い時間だったかもしれない。とにかく泣いているときに看守が声をかけてきた。
「おい、お前に面会者が来ているぞ」
「俺にですか?」
「あぁ、そうだ。」
心当たりがなかった。
「誰だろう?」
「入れ」
と、看守が不審な男を面会室に入れる。入ったのを確認すると看守も部屋に入り鍵を閉めめ扉の前に立つ。俺が逃げ出さないようにするためだ。
面会室は殺風景で何もない。あるとすれば高さ二メートルぐらいにある小窓が一つ。それには鉄格子が嵌められている。わざわざ鉄格子を嵌めていなくても看守が見ている前でそんなところから逃げる奴はまずいないと思う。
その他には何も無く面会者と厚いガラス一枚で遮られている。たったガラス一枚向こうの世界が今までいた自由な世界と思うと、とても悔しくて憎い思う。
そして自由な世界にいる面会者。
面会者は黒いフード付の上着を着ていて顔がよく見えない。なんというか怪しい感じがものすごくする。警察は何故この男を捕まえないのか、と疑問に思うほどに。
――――――。
空気が変わった感じがした。無理やり空間を歪めたような、なんともいえない感じが体全体に違和感として感じた。
「?」
辺りを見回す。扉の前に立っている看守、二メートルの高さにある鉄格子が嵌っている小窓に黒いフードを被った怪しい面会者。何も変わっていない。
「そこの椅子にお座りください」
しばらくの沈黙を破ったのは黒いフードを被った面会者で声をかけてきた。声はとても低くしわがれた声で不気味さを感じるほどだ。
「あ、あぁ」
流されるようにして不審な男は椅子に座った。しかも黒フードの面会者はとても偉そうな態度だったのでついかしこまってしまった。
「俺に何か御用ですか?」
不審な男に黒フードの面会者は尋ずねた。
「貴方はここから出たいですか?」
(終)